深見じゅん『悪(わる)女』

雑誌オリジナル連載 講談社レディースコミック「BE・LOVE 1988年1月〜1997年4月
単行本(新書版) 講談社コミックスBL・全37巻 1989年1月〜1997年7月
単行本(文庫版) 講談社漫画文庫・全19巻 1998年11月〜1999年7月
※新書版コミックスはすでに絶版です。

『悪(わる)女』は「ぽっかぽか」と並ぶ深見先生の代表作です。
1992年にNTV系で夜のドラマにもなったので、知名度はもしかしたら「ぽっかぽか」より上かも知れません。
「ぽっかぽか」は最初ドラマで知ったものの、むしろその後読んだ原作のほうに強く魅了されてしまったわたしとしては、やはり避けて通れない作品です。(笑)
最近、この「悪女」をたまたま古本でまとめて入手する機会に恵まれました。全37巻という膨大なボリュームでしたが、一日半かかって一気に全部読んでしまいました。(^^;)
と言うのも、「悪女」は「ぽっかぽか」と違って最初から最後までずっとストーリーが続いているので、途中で止めるなんてとてもできません。ここ最近、やや心労気味でポジティブな気分転換を図りたかったこともあったのですが、1巻を「ちょっとだけ」のつもりで手に取ったら最後……でした。(笑)
最後の2巻だけ欠けていたのですが、気が付いたら書店に走っていました。第36巻は近所のブックオフですぐ入手できたのですが、第37巻はなかなか見つかりません。最後くらい新品でもいいかと思い、大きめの本屋さんも回りましたがありませんでした。第37巻というより「悪女」自体がないのです。コミックスに特に強い大型書店に行ったら文庫の第19巻があったので仕方なく最後は文庫で購入しました。あとで知りましたが、新書版コミックスはもう絶版なんですね。新品はいまや文庫でしか入手できないのです。「ぽっかぽか」はどちらも入手可能なのに……。これはやはり完結してしまった作品だからでしょうね。本屋さんにしても37冊常備するのは大変ですから文庫のみ残したのでしょう。

「ぽっかぽか」以外の深見先生の作品は、今まで自選集や昨年YOUに連載された「優しくて透明な家」など、読み切りをいくつか読みました。「むぅぶ」「5秒前」はまだですが、みな「ぽっかぽか」とはまた違う良さを持っています。特にこの「悪女」はある意味対極で、「ゲームコミック」というキャッチフレーズ? がまさにぴったりな作品です。次から次へと事件が起こり、主人公麻里鈴は多くの人といろんな騒動に巻き込まれていきます。確かにマンガなのですが、まるで夜のドラマを見ているようでした。ドラマが好きな人には原作「ぽっかぽか」より面白いかも知れませんね。そのくらい、シナリオとして完璧なのです。これには驚きました。
ドラマやお芝居につきものの「悪役」も、これでもかというくらい登場します。「ぽっかぽか」の原作に登場する「さむしい人」たちとは虐めのレベルが違います。(^^;) あまりにたくさん出てくるので、30巻を超えたあたりから少しげっそりという気にもなりました(もっとも、わたしが一気に読んだ疲れもあったかも知れませんが(笑))。
後半になるほど敵は強く、無理難題もエスカレートしていくのですが、いつもギリギリのところで麻里鈴は相手の心の「急所」をビシッと突き刺して勝利するのです。それには多くの仲間の協力と、フィクションならではの「強運」(^^;)も味方しているのですが、このドラマ、じゃないマンガの醍醐味は、悪者を決して悪者で終わらせないところにあると思います。その点はすべての深見作品に一貫しているのですが、意地悪をする人、悪事を働く人の心にある葛藤を見事に引き出しているんですよね。

上述の通りこの作品はNTV系列でドラマ化されています。石田ひかりさんが麻里鈴役を演じて、とても好評だったみたいですね。もちろんわたしは見ていません。どこかで再放送でもないかな?(少し前にCSで放送されていたみたいですが)
この作品はドラマ化しやすかったのではないでしょうか。上記の通り、マンガをそのまま台本にしてもドラマとして立派に成立すると思います。原作に忠実で有名な「ぽっかぽか」でさえ、やはり脚本の中谷まゆみさんがなさったように、「エピソードの切り貼り」とテレビ向けのアレンジは必要だったと思います。実際にドラマ化された「悪女」は連載が続いていた頃(しかもまだ前半)の制作ですから、やはり独自のアレンジが加わっているのだと思うのですが、結末を含め、どのように描かれていたのか興味ありますね。

……と、こんなことを書いてみたくなるのは、実はもう一つ理由があります。
2002年1月に放送されていたケイファクトリーさんのドラマ「プリティガール」との関連です。今回わたしが他の深見作品でなく「悪女」を「いま」読んでみたくなったのには、このドラマを見終わった後、というタイミングも大きく関係しています。
わたしは今回「悪女」を初めて読んで、愕然とした思いがあったのは事実です。詳しいことはあえて書きませんが、思ったことはただ一つ。
「『プリティガール』を最後まで見たあとで読んでよかった」
ということです。もし「悪女」を先に読んでいたら、「インプレッション」で純粋に感じた、ドラマに対する率直な感想は書けなかったと思うからです。
「プリティガール」のあの結末に納得がいかなかった人は「悪女」を読むといいと思います。すっきりしますよ。
「悪女」にも野山花は出てきます。専務と社長、伊能部長も出てきます。……もちろんそのものが出てくるわけじゃありません。単なる比喩です。しかも一対一で対応するわけでもありません。
唯一、出てこないキャラクターは歩美です。
おまけに「プリティガール」には居ない、非常に重要な男性キャラクターもいます。
そう思って読むともっと楽しめる、かも知れません。人によっては。(笑)
わたしは、おそらくスタッフは「プリティガール」をこんなドラマにしたつもりだったのだろう、と思いました。でも、残念ながらその意図が伝わった視聴者はとても少なかったようです。
「悪女」は終わり方も見事です。まだ読んでいない方へのネタバレになるので詳しくは書きませんが、最終回を読んで納得行かない、と感じた人はほとんどいないと思います。単に誰と誰が結ばれるかという次元以上の「結論」がしっかり描かれているからです。

これを読んで「悪女」が気になった人にひとことアドバイスしましょう。「悪女」は1巻と最終巻だけ買って手っ取り早く読んだところで何も残りません。途中から読み始めても話が見えないし、途中で挫折しても良さは分からないでしょう。やはりこの作品は、あのボリュームにひるまず(笑)、一度に全巻揃えて一気に読み切ってしまうのをおすすめします。何しろ、ドラマなんですからこれは。

(2002.4.10)


テレビドラマ「悪(わる)女」は現在再放送中!


「どこかで再放送でも……」なんて書きましたが、なんとCS局「ホームドラマチャンネル」で現在放送中だそうです。(恋華さんより情報いただきました。ありがとうございました!m(_ _)m)
この「ホームドラマチャンネル」は、SkyPerfecTV!のch.362、または一部地域のCATV局で見ることができます。詳しくはウェブサイトをご覧下さい。

<放送スケジュール>
レギュラー放送:2002年4月7日〜6月16日 毎週日曜深夜(月曜未明)2:00〜
全11話一挙放送:2002年6月

やはり好評作品のようで、CS局ではわりとよく放送されているようです。特にドラマ専門のこのチャンネルでは、なんと今回、週1回のレギュラー放送に加え、6月には別の時間枠で全11話をあらためて一挙放送するという力の入れようです。わたしも恋華さんに教えていただいた時にはレギュラー放送が何回か放送してしまった後だったので、一挙放送のほうに興味があります。6月のいつかはまだ分からないのですが、興味ある方はホームドラマチャンネルのサイトをチェックしておきましょう。
6月と言えばワールドカップもあります。スカパーはここしばらくずっと解約していたのですが、ちょっと考えたくなりますね。(^^;)
……でも、近所のビデオレンタル屋さんにもしっかり置いてありました(ビデオは全4巻です)。わざわざ入り直すよりはレンタルで見たほうが安そうです。ですから既に現在スカパーやCATVを契約中の人にはいいお知らせ、というところでしょうか。

(2002.5.2)