原作レビュー

「YOU」本誌で連載中の原作「ぽっかぽか」のレビューをお送りするページです。
現在2000年秋以降の作品をご紹介中です。

2002年4月現在、まだ単行本化されていないお話は、
のはら(コミックスのみ収録)
ころころぽん
だいすき
おもいでごはん
そして最新話「わたしのおうち」となっています。


「のはら」

掲載:
オリジナル連載初出 YOU」2000年No.17 2000年9月1日号
B6版コミックス 「ぽっかぽか11」 2000年10月28日
文庫版コミックス (未収録) (未収録)

体面を気にする外づらの良い母親が抱える悩みについて描いた話。
田所家と最近知り合った新しいご近所さんである「林さん」という母親が、娘の「みさきちゃん」に接する様子が問題になっている。

自分の母親もこれに近いタイプだったので、みさきちゃんの気持ちはよく分かる。自分の母親も、誰かよその人が一緒にいる時は優しかった。おかげでそのひとときは安心して過ごせたが、お客さんが帰ったあとや、自分たちが家に帰って家族だけになると、態度が変わる母親だった。子供はその違いを敏感に感じ取るので、何か頼み事をする時はなるべく他の人と居る時にするなど、考えて行動するようになるものだ。

今回は、林さんにあすかが叩かれたり、吉田さんが林さんをきつくたしなめる場面があるなど、かなり緊張感のある展開になっている。麻美とあすかはいつものまま変わらないのだが、笑顔を出せるような場面は少なかった。

おねしょのくせが治らず、母親との関係がますます悪くなるみさきちゃんは、現実を逃れ、「まほーのくに」の世界を夢見ている。これは精神医学で「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と呼ばれるものからくる現実逃避願望の行動だと思う。

「まほーつかい」を待ちつづけたみさきちゃんは、自分の心に共感し、優しく理解しようとする麻美を「まほーつかい」と思い、「まほーのくにへいこう」と誘う。
この話はマンガだから、と言えばそれまでだが、実際に子どもが本当にここまで口にするようなことがあれば、かなり危機的な状況に置かれているはずだ。「まほーのくに」が幻覚となって現れるようになれば、臨床医による専門的なカウンセリングが必要だろう。
深見先生はこの作品を通じて、世の中の多くのお母さんたちに警鐘を鳴らしているのだと思う。「ではどうすればいいのか」に対する回答はこの作品では示されず、続編となる次の話でその一つの回答が明かされるのだが、現実世界で起こるPTSDはもっと複雑な要因が絡んでいて、マンガにできるほど単純な話ではない。

もともとこういった問題に関心の高い自分にとっては、とても嬉しい限りの展開で、さすが深見先生、と今回もうなってしまった。しかしその反面、「ぽっかぽか」の持つ「何もない」あたたかさを求める読者には、次第に受け入れにくくなっているのではないか、と心配もしてしまう。

ところで、この吉田さんというキャラクターは非常に興味深い存在だと思う。
初登場したのは文庫3巻の「ふわふわ」(1992年)だからもう9年も前からいるキャラクターなのだが、原作のご近所さんの中では異彩を放つ存在感だ。
もともと田所家の周囲の人々はドラマと原作ではまったく違うのだが、ドラマでもこの人に相当する存在はいなかった。麻美と同じ「仙人」の役ができる人で、これが原作をドラマと違う雰囲気に仕立てていると言っても良いだろう。


「ころころぽん」

掲載:
オリジナル連載初出 YOU」2001年No.3 2001年2月1日号
B6版コミックス (未収録) (未収録)
文庫版コミックス (未収録) (未収録)

前作「のはら」の続編というべき内容。こういった2話連続の展開は最近少なかったように思う。
しかし「のはら」は夏の話なので、連続にするには間が開きすぎている気がする。
コミックスではちょうど11巻の最後が「のはら」で、次に出版されるだろう12巻の最初が「ころころぽん」となるが、文庫ではこの2話が続いて収録されるだろう。続けて2話読んだ時、季節のあまりの違いにとまどいを感じないだろうか? 続き話にするなら5か月という間隔は開きすぎだろう。

内容は「のはら」同様、虐待の疑いのあるみさきちゃんという女の子を持つ林さん親子の話だ。「のはら」では林さんの問題に対する根本的な解決がなされないままストーリーが終わっていた。今回はその原因の一つであるご主人が登場し、夫婦間の対話を取り戻すという内容になっている。

個人的には、今まで読んだ原作ストーリーの中でもっとも違和感を感じる話となった。
みさきちゃんが布団の中から麻美に訴えるシーンがあるが、それを聞いた麻美は、林さんに対して(少しだが)怒りをあらわにする。そして林さんに「この間話したのはムダでしたね!」と怒るのだが、これがどうにも不自然な気がしてならない。
「のはら」でも、林さんを直接たしなめたのは吉田さんだった。麻美はいつものように聖人君子の役回りで、「できたての恋人みたいなものかなあ」と静かに語っていたのだが、今回はそうでなかったからかも知れない。しかし今回も実際に問題を解決するのは麻美ではなく、ご近所の坂田さんだ。

ちなみに、この人はかなり昔からわき役として登場し続けているが、ストーリー上重要な存在にクローズアップされたのは初めてだ。子どもは4人兄弟で上3人が男の子、一番下は「知沙子ちゃん」という女の子であすかと同じ保育園、という設定だが、最初の頃は男だけの3人兄弟かと思っていた(文庫3巻「ふわふわ」など参照)。ダウトではないと思うが、ちょっとあやしい。(笑)
文庫2巻「くりすます♪つりー」には、「向井さん」というよく似た人物が出てくる。これはやはり別人物と解釈してあげるのが親切というものだろう。(^^;)

そんな揚げ足取りはどうでも良いが、今回、話の後半で坂田さんの言葉に対し麻美が涙する場面がある。わたしはこれもすごく「違うもの」を感じた。
いつもなら「……」と無言で坂田さんを見つめるところだろう。麻美も年を取ったのだろうか?(^^;)
もちろんマンガの中では取らない設定なのだろうが、少なくともこの2つのシーンを七瀬なつみさんが演じる姿はどうしても想像がつかない。わたしは今回の話を読んで「もうドラマ化は無理だな……」と少し寂しい気分にもなった。

と、違和感を感じつつも、ストーリー全体のトーンは最後の「ころころぽん」という妖精のエピソードのおかげでうまくまとまり、読後感はやはりいつものように暖かく締めくくられている。

気になるのは、今後の展開だ。たぶん次回はまったく違う話になるのではないかと思うが、このところ続いている緊張感のある展開が今後どうなっていくのか。個人的には、この路線にあまり深入りしてしまうと行き詰まってしまいそうで心配にもなるのだが……?


「だいすき」

掲載:
オリジナル連載初出 YOU」2001年No.17 2001年9月1日号
B6版コミックス (未収録) (未収録)
文庫版コミックス (未収録) (未収録)

この頃の原作は半年に一度のペースで、夏と冬に1本ずつ新作が発表されています。巻頭カラーで51ページという待遇もずっと続いていて、やはり「ぽっかぽか」が掲載される号は売れ行きも違うのでしょうね。
「だいすき」はずっとレビューしそびれていましたが、いつも変わらない田所家日常の描写のあと、慶彦と中村が接待旅行に出かけ、取引先の社長さんの豪華な別荘にて夏休みを過ごす、という展開です。この社長さんの抱える家庭の事情を知って二人が涙し、慶彦はまた家族の絆の大切さを再確認する、というのが大まかな流れです。
「のはら」「ころころぽん」が麻美とご近所さんを中心とした構成だったのに対し、「だいすき」と、続く「おもいでごはん」は慶彦と仕事の人たちがメインで、男性の気持ちに訴えるストーリーになっています。


「おもいでごはん」

掲載:
オリジナル連載初出 YOU」2002年No.2 2002年1月15日号
B6版コミックス (未収録) (未収録)
文庫版コミックス (未収録) (未収録)

今回は他のマンガの新連載に隠れ、久々に巻頭カラーから外れました。お正月の発売だったこともあり、気が付かないで読みそびれてしまう人も多いかも知れません。もしこのページを1/14までに見た人は、急いで本屋さんに走りましょう。(笑)
文庫本の未収録が5話になりましたので、次回作の掲載後は文庫8巻が発売されると思います。今のペースだと今年夏に次作掲載、そして年末頃に8巻発売という流れでしょうか。……それでもまだ1年近く先の話なんですね。
最近の原作は内容的にも一つの型が出来上がっているような印象です。悪く言えばワンパターンってことになるんですが、半年に一度くらいで読むと「ああ、やっぱり田所家は変わってない」と懐かしさと安心を覚えます。でも単行本で一気に読むと、どの話も同じように感じるかも知れませんね。
といったことを考えたくなるくらい、今回の「おもいでごはん」の展開は前作によく似ています。もっと似ているのは1999年の「かくれんぼ」です。慶彦を中心に据えた話は最近、中村と一緒に営業するシーンに始まって、取引先の上司のリストラや離婚などの不幸を知って自分の家の姿と重ね合わせる、というパターンが多いですね。
ただ、今回は「食事」に視点を合わせ、それが見どころになっています。深見先生は最近の家族の孤食化傾向に物申したかったのでしょう。とてもよく分かります。
麻美は掃除や洗濯は「ぐーたら」そのものですが、食事、特に夕食は手を抜いていないのです。貧しいのでいつも粗食ですが、決してみじめな食卓には見えません。
麻美は家事が苦手なのに、なぜ夕食はきちんと作るのだろう? 「ぽっかぽか」を見てそう思った人はいませんか? これは料理の上手下手という問題ではないと思います。深見先生は、一緒に食べる食事の大切さをずっと訴え続けていたと思うのです。
「でも麻美は朝寝坊で、朝食にはいつも居ないじゃないか」と言う人もあるでしょう。しかしよくよく考えてみれば、あすかが一人で朝食をとったり、慶彦が朝食の準備をするシーンはドラマ独特の映像です。原作でも出てこないわけではありませんが、ドラマほど強調されていません。逆に原作ではしつこいくらいに夕食を準備したり、3人で食事をするシーンが出てきます。ですから深見先生は「みんなで食べる食事」にかなりこだわりを持っているのだと思います。一方ドラマ化したスタッフは、食事のシーンを増やすとあまりにも典型的なホームドラマになってしまうこともあって、少し趣向を変えたかったのかも知れませんね。
今後も原作ではたぶん、たとえ朝食でも一人で食事するあすかの姿が描かれることはないのでしょう。

(2002.1.9)