「ぽっかぽか」第50話
「のはら」

――子育てと恋愛の共通点って!?――
(YOU掲載時の表紙リード)

オリジナル初出 YOU 2000年9月1日号・No.17/2000年8月11日発売
単行本収録 コミックス第11巻、文庫第8巻

(2002/12/13全面改訂)

「前時代的」だった前作から一転して、いかにも現代的な問題に迫る作品となりました。「ぽっかぽか」にしては他とかなり雰囲気の異なるお話です。

今回のメインキャラは田所家と最近知り合った新しいご近所さんである「林さん」という母親と、その娘であすかのお友だちの「みさきちゃん」です。林さんはいわゆる「外づら」の良い人で、心の中に葛藤を持ちながら、あくまで表面的には笑顔を装って人と接しています。しかし本人が思うほど良い人間関係が築けているわけではなく、その葛藤のおかげで傍目には奇異に見える行動が見え隠れする、という人間像です。現代社会にとてもありがちなタイプの人ですね。

今回は、林さんにあすかが叩かれたり、吉田さんが林さんをきつくたしなめる場面があるなど、かなり緊張感のある展開になっています。麻美とあすかはいつものまま変わらないのですが、いつもの笑顔が出るような場面は少ないのです。
おねしょのくせが治らず、母親にたしなめられるばかりの毎日を過ごしているみさきちゃんは、現実を逃れ、「まほーのくに」の世界を夢見ています。「まほーつかい」を待ちつづけたみさきちゃんは、自分の心に共感し、優しく理解しようとする麻美を「まほーつかい」と思い、「まほーのくにへいこう」と誘うのです。
一見、子どものこういう行動はささいなことのように思えるかも知れません。友だちの親は「よその子」としての配慮がある分、自分の親より親切に見えるものです。今の子どもたちを知らない年配の人たちならそう勘違いしてしまうこともあるでしょう。
しかしここでみさきちゃんが発している「SOS」はそういうレベルではありません。抑圧された日常に対する「叫び」なのです。

ただ、先生には失礼ですが、わたしはこの話を読んでやはり漫画だと感じてしまいました。林さんとみさきちゃんみたいな親子は、今の世の中では極めて普通に見られるようになりました。潜在的な状況まで含めればかなりの数が蔓延していると思います。現実がより怖いのは、子どもたちは決してみさきちゃんのように「都合よく」SOSを発してはくれない、ということ。周囲のお母さんたちも吉田さんのような行動はまず取れない、ということ。さらに言えば、よその母親に「まほーのくにへいこう」という言葉を言う子どもに対し、問題を抱えている親はそれが自分に「恥をかかせている」ことすら分からない、ということです。

先生はこの作品を通じて、世の中の多くのお母さんたちに警鐘を鳴らしているのだと思います。確かにその意味では大切な話となりました。「ではどうすればいいのか」に対する回答は、続編となる次の話「ころころぽん」へ持ち越しとなっています。ところがB6版コミックスではちょうど「のはら」と「ころころぽん」で巻の切れ目となっています。しかもコミックス第11巻は「のはら」の後に短編の「こんな夜は」が入る形で終わっています。コミックリストのページを見ていただければ分かりますが、「こんな夜は」は1997年に描かれた未収録作品で、「のはら」「ころころぽん」は続いている話なのです。

この話がYOUに掲載された時、見開きの扉ページに描かれたリード文は「子育てと恋愛の共通点って!?」というものでした。これだけ見ると何のことだかよく分かりませんが(^^;)、ストーリーの後半には、麻美の「(子育てとは)できたての恋人みたいなものかなあ」という印象的なセリフがあります。その言葉の意味するところは確かにすばらしいのですが、虐待の問題ばかりはそれだけではとても片付けられそうになく、社会的な病理も含んだ現代人の抱える実に重たいテーマだと思います。みんなが「ぽっかぽか」を読めば……なんて言って済まされることだったら気が楽なんですけどね。


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